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東京地方裁判所 平成3年(特わ)2236号 判決

本店所在地

東京都台東区台東三丁目一六番二号

株式会社オリエント建築設計事務所

(右代表者代表取締役 島田久)

本籍

東京都台東区浅草橋三丁目二五番地二

住居

同都墨田区両国二丁目二番二-一〇〇四号 ライオンズマンション両国南

会社役員

島田久

昭和一七年一〇月二六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官今村隆、弁護士多田武、同鈴木善和出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社オリエント建築設計事務所を罰金一億円に、被告人島田久を懲役一年八月に、それぞれ処する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社オリエント建築設計事務所(以下「被告会社」という)は、東京都台東区台東三丁目一六番二号に本店を置き、建設工事の企画、設計及び管理等を目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人島田久(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、他人名義で不動産の売買を行って同取引に係る利益分配金収入を除外する等の方法により所得を秘匿した上、昭和六一年八月一日から昭和六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億五三七九万四〇〇五円(別紙1の修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が七億二三六三万九〇〇〇円であったにもかかわらず、右法人税の納期限である昭和六二年九月三〇日までに、東京都台東区東上野五丁目五番一五号所在の所轄下谷税務署(現在は東京上野税務署)の署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における法人税額四億六〇三六万一二〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  第二回ないし第四回及び第八回公判調書中の被告人の各供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(二通)

一  第七回公判調書中の証人作田良一の供述部分

一  梶川嘉臣及び佐伯洋一の検察官に対する各供述調書

一  礒照夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の利益分配収入調査書(抄本)、設計監理企画料調査書、仲介料収入調査書、受取利息調査書、受取配当金調査書、給与手当調査書、外注費調査書、消耗品費調査書、リース料調査書、地代家賃調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、接待交際費調査書、租税公課調査書、車両費調査書、会議費調査書、保証金償却費調査書、備品除却損調査書及び事業税認定損調査書

一  東京国税局査察部査察総括第二課山田昭夫作成の調査報告書

一  検察事務官作成の搜査報告書(二通)及び領置調書

一  登記官作成の商業登記簿謄本、閉鎖商業登記簿謄本及び平成四年三月四日付閉鎖不動産登記簿謄本(三通)

一  押収してある念書一枚(平成四年押第一〇二〇号の1)

(補足説明)

一  弁護人は、(1)東京都台東区北上野二丁目四一番二、同四二番二及び同四三番一の三筆の土地(以下「本件土地」という)は、三平建設株式会社(以下「三平建設」という)が単独で取得し譲渡したものであって、被告会社が三平建設と共同でこれを取得し譲渡したことも、三平建設と民法上の組合契約を締結したこともないから、被告会社には本件土地に関して租税特別措置法上の土地譲渡益重課制度(以下「土地重課」という)の対象行為がなかった、(2)被告会社の山本輝躾に対する二億円、中川喜市に対する一〇〇〇万円の謝礼金の支払いは、法人税法上損金不算入とする別段の定めがないから、所得計算上損金に算入されるべきで、被告会社の実際所得金額から控除すべきであると主張する。そこで、以下これらの点について検討する。

二  土地重課対象行為の存否について

1  前掲の各証拠によれば、次の事実が認められ、かつ、当事者間にも概ね争いがない。

(一) 被告会社は、建設工事の企画、設計及び管理等を目的とする株式会社であるが、事実上被告人が一人で切り盛りする個人企業であった。

被告人は、昭和六一年一月ころ、佐伯洋一から本件土地の借地権等の相続税の支払いについて相談を受け、右土地の地主である礒照夫らとの間で等価交換方式によるマンション建設についての交渉をしたが、この交渉は成功しなかった。その後、被告人は、本件土地の地上げに乗り出し、同年二月ころ、地主の礒照夫ら及び借地人兼建物所有者の佐伯洋一らから本件土地上の権利をそれぞれ売却する旨の承諾を取りつけた。被告会社は、従前から三平建設(あるいはその前身の株式会社三平興業)との間で、同社の指示により地上げを行い、同社がその土地の上に建設する建物の設計を請け負い、建築代金の三ないし四パーセントを設計料として受領するという取引を行っていた。被告人は、本件土地についても買収の話を三平建設の専務取締役梶川嘉臣(以下「梶川」という)に持ちかけ、〈1〉被告会社が本件土地の買取交渉の一切を引き受ける代わりに、三平建設が土地の購入資金全額を工面すること、〈2〉本件土地上に被告会社と三平建設が共同でマンションを建設して売却し、その利益を被告会社が六割、三平建設が四割で分配することを約した。右約束に従い、同年八月、三平建設から合計八億九四〇四万五〇〇〇円が礒、佐伯らに支払われ、三平建設を買主、被告会社を立会人とする本件土地(土地上の建物を含む)の売買契約書が作成された。なお、右契約に際して、被告会社は佐伯から仲介手数料として一一五〇万円を受領し、被告人は、礒に対しても同様に一〇八七万円の支払を要求したが、礒に断わられたため、右金額は三平建設の買取価格に諸費用として上乗せされ、礒に支払われた金員の中から被告会社が受領した。

(二) その後、被告人と梶川は協議の上、本件土地上にマンションを建設して開発するよりも、折からの不動産価格の高騰に乗じて、本件土地を更地のまま転売した方が、たやすく、かつ多額の利益を得ることができることから、本件土地を転売することとした。被告人は、同年一〇月、三平建設の得意先である株式会社開幸地所(以下「開幸地所」という)が坪単価一五〇〇万円で買い取ることになったと梶川から聞き、その話を了承した上、同人に本件土地譲渡による被告会社の利益の分配額について計算するよう求めた。

(三) 梶川は、右要求に応じて、同月二二日ころ、被告人に「北上野土地組合計算書(第一案)」と題する書面を提示したところ、利益分配の割合が被告会社が五五パーセント、三平建設が四五パーセントになっていたため、被告人が当初の利益分配の約束と違う旨主張した。そのため、三平建設では、被告人の右意向に従い、利益分配の割合を被告会社が六割、三平建設が四割とする計算書(「北上野土地組合計算書(第二案)」)を作成し直し、梶川が被告人に提示したところ、被告人も右の案を承諾した。

(四) 被告人は、前記計算書(第二案)を示されたとき、被告会社が四億六〇〇〇万円余の利益の分配を受けることとなることを知ったものの、その大半を納税しなければならないものと思い込み、本件土地取引による取得利益を隠匿して脱税することを思い立った。そこで、被告人は同年一〇月下旬ころ、取引仲間で創都開発株式会社(以下「創都開発」という)の代表取締役である山本輝躾に相談した結果、本件取引に山本が経営する関連会社の二法人を外形上介在させて、転売利益をそれらの会社に吸収させる方法で被告会社の取得利益を秘匿することにした。

(五) 被告人は、梶川との交渉で、三平建設と開幸地所との本件土地売買契約に前記二法人を介在させることを三平建設側に了承させた。この結果、同月三〇日、本件土地は、形式上三平建設が創都開発に一四億六二一〇万円で、これを創都開発が三六企画有限会社に一五億六四四四万七〇〇〇円で、さらに、これを三六企画が開幸地所に二一億九三一五万円でそれぞれ転売させた形とし、その旨の契約書が各会社間で作成された。

これに基づいて、開幸地所から同日に手付金四億円が、同年一一月二七日に残金一七億九三一五万円が支払われ、同日被告人が開幸地所から七億三一〇五万円(小切手)を受け取った。

2  以上の事実を前提として、本件土地の譲渡行為の主体が誰であったかを検討する。

(一) まず、本件土地は、被告会社が地上げを行った上で三平建設に取引を持ちかけたのであり、本件土地買収後、当初の計画を変更して更地のまま転売することや開幸地所への坪単価等の決定は、三平建設の梶川が逐一被告人に伺いを立てて、その了承を得た上で行っている。いわゆるダミーの二法人を本件土地の取引に介在させて、土地譲渡益を秘匿するという方法は、被告人が梶川に了解させて実行したものであり、明らかに被告会社の主導の下に行われているのである。以上の事実関係をみれば、本件土地の譲渡行為に関して、被告会社が三平建設と対等ないしそれ以上の立場でその意思決定に関わってきたというべきである。

(二) そのほか、前記1の事実の中でとりわけ注目に値するものは、本件土地譲渡による利益が、被告会社六割、三平建設四割という割合で分配されており、しかも、右の割合に決定した経緯が、当初三平建設側が五五パーセント対四五パーセントの割合を提案したのに対し、被告人が自らの主張を通して割合を改めさせたものであるという点である。これをみると、被告会社が、利益分配に関しては、三平建設に対して優位に立っていたことは明らかである。右割合により被告会社が取得した利益分配金の額七億三一〇五万円は、正規の土地売買の仲介手数料、すなわち二一億九三一五万円の三パーセントである、六五七九万円余と比較して余りにも多額であって、到底本件土地の取引の仲介料として説明しうる額ではない。

被告人は、検察官に対する供述調書において、従来の三平建設との取引においては、大変な苦労をして地上げをしても、同社から建築代金の三ないし四パーセントの設計料しかもらえず、不満を抱いていたところ、今回の取引においては、これまで取れなかった利益を一挙に取り戻そうと考え、今回の土地が自分の見付けてきた土地で、三平建設に対して強い立場にあったので、六対四の利益配分を要求し、本件土地取引が転売目的に変わった後も、久しぶりに大儲けをしようと思い、当初の利益配分を主張したと供述している。この供述は、前記の認定事実に沿う上、梶川の検察官に対する供述調書の内容とも符合しており、信用性が高いということができる。弁護人は、六割の利益分配の約束は、当初マンションの建設を構想していた際に被告会社と三平建設との紳士協定に過ぎなかったものが、土地購入後にマンション建築という当初の目的が更地での転売に変わった後も、事実上守られたものであると主張し、被告人も公判でこれに沿った供述をするが、右主張は、前記の認定事実に照らして不合理であり、到底採用することができない。

(三) 弁護人は、(1)本件土地の購入及び売却がいずれも三平建設の単独名義で行われている上、購入後の土地の所有者は登記簿上三平建設の単独名義であること、(2)購入の際に佐伯ら売主側の人間は、売買の相手方が三平建設のみであると認定しており、被告会社は、本件土地取引の仲介手数料として佐伯と礒からそれぞれ一〇八七万円と一一五〇万円を受け取っているほか、三平建設からも前記利益分配金とは別に一五〇〇万円を受け取っていることなどから、本件土地の取引は、三平建設が単独で行ったもので、被告会社は取引主体ではないと主張する。

しかし、まず(1)の点は、被告会社に資金を調達する能力がなく、逆にこの能力を有する三平建設が金融機関から土地購入資金の融資を受けるための便宜上、三平建設の単独名義による売買契約書を作成し、登記簿上も単独の所有名義人となったと考えられるから、被告会社も実質的に本件土地の取引主体であると認める妨げになる事実ではない。

次に(2)のうち、売主側の認識の点や被告会社が佐伯ら売主側の者から仲介手数料の名目で金銭を受領している点は、被告人が佐伯らに対して被告会社が仲介人であるかのように振る舞ったと言うことを示すに過ぎず、被告人が本件土地取引をめぐる被告会社と三平建設の内部関係をあえてこれらの者に明らかにするとは考えられず、また、これらの者もそのような内部関係に関心がなかったと考えられるから、右の点も、被告会社が実質的に本件土地取引の主体であることと両立しうるものである(なお、検察官も論告においてこれと同旨の主張をしているが、冒頭陳述書添付の修正損益計算書及びほ脱所得の内訳明細においては、被告会社のこれらの収入を仲介料収入と取り扱っており、この点は最後まで維持されている。三平建設との関係では、被告会社に仲介者としての面もあるといえなくもないので、これらの収入が仲介料としての性質を全く帯びていないとまではいいがたいし、このような取扱いは税務処理上被告会社に有利であるから、当裁判所もこれに従っている)。さらに、(2)のうち、利益分配金とは別に、三平建設から被告会社に対して一五〇〇万円の仲介料が支払われている点については、梶川の検察官に対する供述調書によれば、本件土地売買の目的がマンション建設から転売に変わったことにより、被告人が被告会社において取得するはずの設計料相当額の支払いを三平建設に求め、梶川としては、虫のいい話だとは思ったものの、本件土地の取引に関しては、被告会社が強い立場にあったので、この要求を承諾せざるをえなかったことが認められる(被告人も大蔵事務官に対する平成元年八月五日付質問てん末書において、これと概ね符合する供述をしている)。これによれば、右一五〇〇万円は「仲介料(企画料)」という費目で支出されているが、これは、便宜上のものに過ぎず、実態を反映したものではないというべきである(なお、この一五〇〇万円は、本件事業年度外の昭和六一年七月二一日に被告会社に支払われた扱い《相殺処理》になっているので、本件では計算外となっている)。したがって、右の点も、被告会社が本件取引の主体とみることの障害となるものではない。

(四) 以上の検討から明らかなとおり、開幸地所への本件土地の転売は、三平建設と被告会社の共同事業によるものであり、被告会社は、三平建設と並ぶ本件土地譲渡の取引主体であるとみることができるから、転売利益中の被告会社の取得金は土地重課の対象になると解すべきである。

なお、三平建設と被告会社間の本件土地をめぐる契約関係について、検察官は、主位的に両社の共同による売買であり、予備的に両社を構成員とする民法上の組合であると主張しているところ、本件において、三平建設と被告会社との内部の契約関係は、細部まで詰められていないため、それが共同の売買に当たるか、民法上の組合に当たるか、それとも民法上の組合類似の非典型契約に当たるかは、必ずしも判然としない。しかし、その形態が右のいずれであっても、本件土地の取引が前記のように三平建設と被告会社の共同事業であることに変わりなく、本件の税務処理上何らの差異も生じないと解されるので、これ以上立ち入らないこととする。

3  弁護人は、検察官が訂正後の冒頭陳述書添付の修正損益計算書において、「土地の譲渡等による収益の額」、「同上に対応する原価の額」、「同上に係る販売費及び一般管理費」として新たに勘定科目を起こして計上した額は、実際の取引に合致せず、不合理であると主張する。しかし、三平建設と被告会社の内部関係が民法上の組合ないしはこれに類似する非典型契約であったとすると、利益について六対四の割合で分配約束があったのであるから、これに対応する収入金額と費用についても、六対四の割合で配分、分担する関係にあったと推認することができるし、共同の売買であったとしても、転売利益を六対四で分配するという約束があったことから、本件土地の共有持分を六対四にするという約定があり、本件土地の売買をめぐる収入金額と費用についても、六対四の割合で配分、分担する関係にあったと解することができる。したがって、修正損益計算書に計上すべき本件土地の譲渡に関する収入金額及び損金の額は、利益分配の割合ないし土地共有持分の割合に応じてあん分した額となるから、これが実際の取引に合致しないという弁護人の右主張は失当である。

4  以上によれば、被告会社は、本件土地譲渡の共同取引の主体として、土地重課の適用を受けるべきである。

三  本件謝礼金の損金計上の許否について

前掲の各証拠によれば、被告人は、本件土地の譲渡により被告会社が取得した分配金の中から、(1)創都開発の山本輝躾に対し、二億円、(2)友人の中川喜市に対し、一〇〇〇万円の合計二億一〇〇〇万円を支払ったこと、(1)の二億円は、山本に前記のとおり脱税の指南を仰ぎ、その関係する会社をダミーに利用させてもらったことに対する謝礼の趣旨で、(2)の一〇〇〇万円は、開幸地所から本件土地の代金として被告会社が受領した小切手を被告会社の関係する金融機関で換金すると、このような収入の存在が税務当局に発覚するのではないかと危惧し、中川にその取引先銀行口座を右小切手の換金のため利用させてもらったことに対する謝礼の趣旨で、それぞれ支払われたものであること、すなわち右二億一〇〇〇万円はいわゆる脱税経費の範疇に属する謝礼金であることが認められる(以下、この二億一〇〇〇万円を「本件謝礼金」という)。そこで、本件謝礼金を被告会社の所得計算上損金に計上することが許されるか否かについて検討する。

法人税法二二条三項は、税務会計処理上損金の額に算入すべき金額を一号ないし三号に列挙しているのであるが、まず、同条三項一号所定の「原価」とは、当該事業年度の益金の額に算入された収益に対応する原価をいい、同項二号の「費用」とは、収益と個別的に対応させることが困難ないわば期間費用であって、事業活動と直接関連性を有し、事業遂行上必要な費用をいうものと解されるところ、本件謝礼金は、右のように脱税工作への協力に対するものであって、収益には個別的にも一般的にも全く対応するものではないから、右の「原価」にも「費用」にも該当しないことがあきらかである。問題は、本件謝礼金が同項三号の「損失」に該当すると解する余地があるか否かである。右「損失」については、火災、風水害、盗難など、企業の通常の活動と無関係に発生する臨時的ないし予測困難な外的要因から生ずる純資産の減少を来たす損失をいうものと一般に解されており、これによれば、本件謝礼金は「損失」にも当たらないということになる。さらに、そもそも、法人税法は、納税義務者が同法の定めに従い誠実に納税義務を履行することを期待し、不正行為によって法人税を免れる行為を刑罰で禁圧しているが、本件謝礼金のような脱税のための支出を法人の所得計算上損金の額に算入することを許せば、当該納税者の税負担を軽減させて、脱税を助長する反面、その分の負担を国家に帰せしめる結果となるから、前述のように刑罰で脱税行為を禁圧した法人税法の趣旨に悖ることになるのである。すなわち、本件謝礼金のような支出の損金計上を肯認することは、法人税法の自己否定という結果を招来することになるのである。そうすると、本件謝礼金のような支出については、その損金計上を禁止したふ明文の規定がないからといって、法人税法がこれを容認しているものと解することはできない。したがって、本件謝礼金は、前記「損失」にも該当せず、法人税法二二条所定の損金に当たらないと解されるのであり、被告会社の所得計算上これを損金に算入することはできないことになる(東京高裁昭和六三年一一月二八日判決・高刑集四一巻三号三三九頁参照)。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、法人税法一五九条一項(罰金刑の寡額について、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年八月に処し、被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項(罰金刑の寡額については、前同)の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その所定金額の範囲内で被告会社を罰金一億円に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人及び被告会社に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、建物の建築設計を業とする被告会社の代表者である被告人が、いわゆる地上げをした土地を取引先の建設会社と共同で更地のまま転売した過程で巨額な利益を得ながら、これを含めて所得を一切申告せず、被告会社の法人税を免れた事案である。

本件はほ脱額が約四億六〇〇〇万円余と多額である上、全く納税申告をしなかったため、そのほ脱率は一〇〇パーセントであって、重大な事案といわなければならない。その犯行の態様をみても、脱税に際し売買利益を圧縮することを企て、ダミー会社二社を介在させ、しかも脱税の指南を仰いだ知人に二億円、受領した小切手の換金への協力を求めた知人に一〇〇〇万円、合計二億一〇〇〇万円もの謝礼金を払っていたものであって、脱税の手口は悪質であり、脱税の犯意にも強固なものが窺える。また、脱税の動機をみても、折からの不動産ブームに便乗して一攫千金を狙ったもので、酌量の余地に乏しい。加えて、被告会社は未だ法人税本税二億円弱を納付したのみで(このほかに国税局により債権やゴルフ会員権の差押がなされている)、地方税、延滞税を含む完納の目処は立っていないことなどに照らすと、被告人及び被告会社の犯情は悪く、その刑事責任は重いというべきである。

一方、被告会社は、査察の少し前に被告人が所轄税務署へ税務相談に赴くなどしているほか、期限後の確定申告及び修正申告を行った上、かなりの納税努力をしたこと、被告人も本件犯行を反省し、被告会社の適正な税務処理に努めていること、前科前歴がないこと、被告人の家族関係等被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

しかしながら、右情状を十分考慮に入れても、本件犯行の重大性と悪質性にかんがみると、被告人に刑の執行を猶予すべきではなく、被告会社も主文掲記の罰金刑に処するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安廣文夫 裁判官 朝山芳史 裁判官 福島政幸)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

別紙2 ほ脱税額計算書

〈省略〉

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